天皇杯 JFA 第101回全日本サッカー選手権大会 決勝 国立競技場 大分トリニータ戦
さて、いよいよ天皇杯も決勝戦ですね。この試合を最後にチームを離れる選手たちを気持ちよく送り出すためにも、そして目標であるACL出場権を得るためにも、なんとしてでも勝って終わりたい決戦の相手は大分トリニータ。決戦の地は新国立競技場です。
大分は今シーズンリーグ戦では9勝21敗8分けの勝点「35」で最終順位18のJ2降格。得点31に対して失点55、得失点差としては-24という形で成績だけみれば圧倒的に下位のチームではありますが、降格が確定後のリーグ戦では2連勝してシーズンを終わり、さらに天皇杯では川崎を破って決勝進出。要するにもう失うものがなくなって、思い切ってプレーできるようになった結果、パフォーマンスが向上しちゃってるっていう面倒くさい相手です。
また、1年を通してのパフォーマンスが求められるリーグ戦とは異なりカップ戦は一発勝負なため、リーグ戦での順位がそのまま勝敗に反映される、降格したチームだからといって楽に勝てるなんてことはありませんから、気を抜かずにしっかり集中して試合に入って、先手を取りたいところ。
スターティングラインナップ
さて、決勝戦のスタメンは、最終ライン、左から明本さん、ショルツさん、岩波さん、酒井さん。ダブルボランチに敦樹さんと柴戸さんを配置。左SHに小泉さん、右に関根さん、トップ下に江坂さん、1トップにユンカーさんを置いた 4-2-3-1 スタート。GKは西川さん。サブのメンバーとしてはウガ、槙野さん、西さん、大久保さん、汰木さん、平野さん、それに彩艶さんが控えます。
ユンカーさん、小泉さん、江坂さんが一気に先発するのって初めてじゃないですかね(記憶が曖昧)。小泉さんのスタートポジションは左のSHになっていますが、実際には中に絞ってプレーすることで大外を明本さんが積極的に高い位置を取るという役割分担はできていて、大分のポジショニングとのかみ合わせもあって、立ち上がりにサイドを起点にしたウチの攻撃が活性化しました。
対する大分は、最終ライン左から三竿 雄斗選手、エンリケ・トレヴィザン選手、ペレイラ選手、小出 悠太選手。アンカーの位置に小林 裕紀選手、その前面に町田 也真人選手、渡邉 新太選手、そして下田 北斗選手を中盤ダイヤモンド型に配置。2トップに伊佐 耕平選手と小林 成豪選手を置いた、4-1-3-2 のフォーメーションでスタート。GKは準決勝で川崎を相手にPKを止め、大分決勝進出の立役者となった高木 駿選手。
早い時間帯の先制で流れを一気に持っていけるかと思いきや、
少し受けに回ってしまった感がある前半
大分はウチと同じでボール保持時可変システム。ボール保持時にはアンカーの小林選手が最終ラインに落ちる形で3バックを形成し、3-3-2-2 みたいな立ち位置を基本にボールを前進させてきます。守備時は 4-1-3-2 のままなので、かみ合わせ的には、中央で大分の方が人が多い状態になりますので、ウチとしてはそこをうまく回避しつつ、サイドで優位性を取りたい。大分としては人数の多い中盤の中央で奪いきってというのが狙いのひとつになると思いますが、立ち上がりに主導権を握ったのはウチでした。
ユンカーさんが常に相手の最終ライン裏にプレッシャーをかけ続けることで相手CBが縦に潰しに出ていけないようけん制。左はSBが高い位置を積極的に獲る、右は関根さんやユンカーさんがサイドに流れたりしながら仕掛けることで相手SBを最終ラインの低い位置に押し込む。これによって生まれる相手アンカーの両サイドのスペースに江坂さん、インサイドワークする小泉さんや関根さんがうまく立ち位置を獲ってボールを引き出し、さらに後方から敦樹さんがこのスペースを脅かすことで大分のバイタルエリアに圧力をかけます。
大分アンカーの小林選手にしてみれば、自分の周囲でボールを受けまくるウチの選手を潰しに出ていけば、その背後でボール受けられる。そこは本来味方のCBに潰しに出てきてもらいたいんだけど、CBとしても下手に出ていくとそれで生まれたギャップにユンカーさんや江坂さんが入ってくるのでそう簡単には出て行けない。そこで後手を踏むと中央バイタルエリアに起点作られたところからフリーの明本さん、関根さん辺りにガンガンサイドを突破されるって感じで、相当混乱したんじゃないでしょうか。
そんな立ち上がりでウチがうまく大分のポジショニングのギャップを突いた結果、6分に先制点が生まれます。
右サイドで関根さんが酒井さんからボールを受けると、そのまま一気にドリブルで前進。関根さんにゴリゴリ前進されたことで大分ディフェンスラインも必死で追いすがり、左SBの三竿選手が少し後ろから倒す感じで止めに行きますが、これはノーファールの判定。しかしこのこぼれ球を後ろからフォローしていた小泉さんが拾うとプレー続行。巧みなドリブルでペナルティエリア内に侵入すると、三竿選手と競り合って今度は小泉さんが三竿選手を倒す形に。しかしこの試合の主審、荒木さんの基準はこのくらいのファールはなかったことになるってことでプレーは継続します。
再度こぼれ球を拾った関根さんが多少強引なドリブル突破でゴール目前まで仕掛け、相手ディフェンスとGKを引っ張り出したところでぽっかり空いた中央にマイナスのボールを供給。これを満を持して走り込んできた江坂さんが右足で叩き込んで先制点。江坂さんのシュートもGKが飛び出していて一瞬無人のゴールとはいえ、必死でカバーリングする大分の選手がシュートコースに突っ込んでくる中、決して簡単なものではありませんでしたが、冷静に枠に蹴り込み欲しかった先制点を早い時間帯にもたらしてくれました。
よい立ち上がりで相手をうまく崩し、早い時間帯に先制できたことでこのままの勢いで一気に試合の流れを持っていけるかなと思ったんですが、想定していた以上に先制後のウチは少し受けに回った感が。大分が失点後は無理に縦に急がず、ボール保持からかなり時間をかけたビルドアップへと切り替えてきたため、そこで無理に守備を前からハメにいくと大分の思うつぼということもあり、一旦守備ブロックを作る方を優先するという判断だったと思いますが、先制後しばらくは大分にボールを保持されて押し込まれる時間帯が長くなってしまいました。
この辺、決勝は飲水タイムがなくなり、途中でベンチからの修正指示などをチーム全体に伝える機会がなくなったことも少し影響しているかもしれません。ピッチ上の選手たちだけで判断しなければならない時間が長くなりましたから、先制後はリスクを取らない判断に傾くのはある程度は仕方なかったかもしれませんね。
とはいえ、この日圧巻だったのは中盤の柴戸さんの働き。前述したとおり、立ち位置的には中盤で大分の方が人数が多いため、まともにぶち当たると難しくなるはずなんですけども、柴戸さんがとんでもない強度とスピードで襲いかかるもんだから大分の選手もゆとりを持ってボール保持できず。柴戸さんのところで刈り取られると、大分は可変でポジションを大きく動かしている分ウチの選手が前線で結構フリーになってる状況が生まれてたりして。カウンター気味にウチの攻撃が炸裂するみたいな流れで、大分が全体としてはボール保持しているけど、チャンスの数ではウチの方が上回ったような印象でした(現地で観戦後、時間がなくて試合中継を見直していないので私の記憶でですが)。
後半、大分のポジショニング修正に流れを持っていかれる展開
終盤の1点守り切り策も不発に終わり万事休すかと思いきや......
欲を言えばチャンスを活かして追加点を奪って終わりたかったなぁという印象が残った前半でしたが、後半は逆に大分の修正に後手を踏んで押し込まれる流れになります。
大分は後半から選手の並びを 4-4-2、中盤をダイヤモンド型にしていた状態からダブルボランチにして、前半ウチにうまく使われた印象のあるアンカー脇のスペースをケア。守備時の役割分担を整理してきたのと同時に、最終ラインのビルドアップも 4枚回しにしてウチの1列目守備に対して人数的な飽和状態を作りだし、サポートに出てくる中盤を裏っ返す狙いを出してきます。
特に 4-4-2 ブロックで左サイドから小泉さんが最前線に押し上げる形でユンカーさんと江坂さんの1列目守備をサポートしに出ていったタイミングで小泉さんの裏を獲る。そこに対して敦樹さんや柴戸さんがカバーに出ていくと、空いたバイタルエリア、ウチの最終ライン前面で相手2トップがボールを受ける形からゴールに迫られる展開。ひとつ守備がズレることで後手を踏まされる感じでボールを前進させられると、前半は確か1回くらいしかなかった大分のコーナーキックも後半は立て続けに発生してゴール前での際どい守備を強いられ、嫌な流れになりますが、ウチも最終ラインの強度はショルツさん、酒井さんを中心に高いので決定機とまではならずしのぐ展開。
72分にはユンカーさん→ウガとして、ウガを左のSBに。明本さんを1列上げて守備面を整備。ユンカーさんは守勢に回った状況ではその守備面での立ち方やプレスに出ていくタイミング、強度的にも周囲と少しあわない感があるので仕方ないと思いますが、攻撃の駒を削って守備を足した形に。
83分には小泉さん→槙野さん、関根さん→大久保さんとして、槙野さんを最終ラインの中央に。3バックへと変更して最終ラインの人数を増やしますが、これは明確に残り時間、江坂さんの1点を守り切ろうというメッセージ。しかしこの交代で後ろが重たくなった結果、押し込まれた試合終了間際の90分にまさかの失点...... セットプレー時に少しトリッキーなショートコーナー的な対応されたことでマークをズラされてしまいましたが、クロスを上げた大分の下田選手に大久保さんがもう少し寄せられてればとかはタラレバ。
個人的にはこの失点はかなりヤバイと感じていて、もうこっちは90分で1点守り切って勝ちに行った状況で失点。攻撃的な選手はみんな下げちゃってるし、交代回数(3回)も使い切ってるわ、槙野さん入れてビルドアップの部分はぶっちゃけ諦めてる感じだしこれで延長戦行ったらやばくね?っていう。延長戦で交代回数は1回復活するので選手交代自体はまだできますけども、流れ的には大分だし、PK戦まで持って行かれるともう実力とかかんけーねーし嫌だなぁ怖いなぁなんとか残りアディショナルタイムで1点奪ってくれねぇかなーとか思ってたんですけどもまさか本当にあんなドラマが起こるとはね。
90+3分、右サイドで大久保さんがねばってコーナーキック獲得。キッカーはそのまま大久保さん。左足、インスイングで蹴り込まれたボールは相手GKにパンチング(or ディフェンスのヘディングだったかな)でクリアされますが、このボールの落下点にいち早く反応した柴戸さんがこの高く上がった難しいボールをダイレクト、右足一閃してとんでもないミドルシュートを枠に叩き込みます。大分GK、高木選手もこのシュートに反応しますが、シュートコースにいた槙野さんが頭でうまくスラしてコースを変えると、完全にGKの逆を突く形になったシュートはそのままゴールに吸い込まれてこれが決勝ゴール。
マジ槙野さんすげぇっす。試合を締めるために送り込まれたのに失点して、一旦は絶望させられましたけども、最後の一番おいしいところを持って行く感じ。なんていうかまさに「持ってる男」ですね。そしてリカさんもこういう状況で勝ちきる運みたいのを持ってる人なんでしょう。流れ的には大分の劇的同点ゴールから完全に大分が天皇杯持って行く勢いでしたけども、相手の劇的同点ゴールをさらに上回る超劇的決勝点を、しかもこの試合を最後に浦和を離れる選手が叩き込む。ストーリーとしてはできすぎですけど、最後の数分間で本当にすげぇものを見させてもらったなと。
ということで、リカルド・ロドリゲス監督、新体制の元、初年度で天皇杯のタイトルを獲得。浦和の3年計画、2年目の目標だったACL出場権も有言実行、獲得し、来年はACLと国内リーグ、カップ戦の同時進行となりました。正直できすぎな結果だと思いますが、タイトルを獲るという経験は何事にも代えがたく、今年からチームに加わった選手、若い選手たちにとっても大きな経験になるでしょう。ベテランが奇跡を起こしてタイトルを置き土産にした、それを受け取った若い世代はこの経験を活かして次の強い浦和を作っていって欲しいと思います。
さて、これで今シーズンも終わり。この試合を最後に阿部ちゃんが引退し、ウガ、槙野さん、デンさん、そしてもしかすると週明けに加えて何人かの移籍が発表される可能性もあります。その分、来シーズンに向けた補強には期待も高まりますし、ここからさらに進化したチームが見られることに対する楽しみも大きいですが、同時に「今シーズンは新体制1年目だからね」である程度大目に見られていた部分が来シーズンはより厳しい目で見られることになるでしょう。高まる期待にどう応えてくれるのか、しばらくは天皇杯優勝の余韻に浸りつつ、来シーズンに備えようと思います。
おまけ
試合開始前のビジュアルサポート素晴らしかったですね。
Lフラたくさんのゴール裏もよかった。
自分はバックスタンドにいたので表彰式はモニターで見るしかない感じになっちゃいましたけど......
昨日撮ってた動画。バックスタンドだったから表彰台が裏側で何も見えんかったけど金テープの噴射だけははっきり見えたぞ(笑) pic.twitter.com/W3DcYShgOG
— Yoshiki Kato (@burnworks) December 20, 2021
バックスタンド側に選手たちが挨拶に来てくれたのでみんなの喜んでる顔は近くで見ることができました。よき。
あとこれ、選手たちがバックスタンド側にご挨拶しに来てくれたときの pic.twitter.com/miTHz5fOI8
— Yoshiki Kato (@burnworks) December 20, 2021
ちなみに新国立競技場は今回が入るの初めてだったんですけども、バックスタンドの1層目しか見てないのであれですが、まぁ正直なところ日産スタジアムの1層目よりは見やすいかな~くらいで、やっぱり陸上トラックが邪魔でピッチまでが遠いし、あまりサッカーをここで見たいと思わせるようなスタジアムではなかったです。コンコースが広いなってのはさすが新しいスタジアムって感じでしたけど。
このレビュー記事について浦和レッズサポーター向けFacebookグループでメンバーの方々との意見交換などもしています。詳しくはこちらをご覧ください。
試合ハイライト
試合データ
観客:57,785人
天候:晴れ / 気温 10.1℃ / 湿度 33%
試合結果:浦和 2-1 大分(前半1-0)
レッズ得点者: 江坂(6分)、槙野(90+3分)
警告・退場: 槙野(警告×1)
主審: 荒木 友輔 氏
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