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フィンケ監督、最後の会見を読んで - 後編

前編からの続き。会見記事後編の始まりは外国人枠について。

今私が確信を持って言えることは、日本のサッカー界での常識、それから多くのことについての考え方は、Jリーグが産まれてからの最初の12~13年間とは違うものにならなくてはいけないということです。皆さんも最初のJリーグの12年間をご存知だと思います。日本は60~70年代の経済的な成長もあって、とても豊かな国になりました。とてもとても幸福な国だったのです。

そしてとても強い財政力があったということもあって、バブルが崩壊した後でもJリーグには多くの、とても、とてもレベルの高いところでプレーしていた―ブラジルを筆頭に―様々な国から選手がきました。ドゥンガ、レオナルド、ウーベ・バイン、ブッフバルト。引退する直前の、とても優れた各国のブランドネーションの代表選手をたくさん引っ張ってきました。なぜならば、とてもたくさんのお金があったからそういうことができたのです。

そしてそれによってJリーグの人気を上げようとしました。そしてこのような有名選手がたくさん集まったこともあって、とても早くこのJリーグの人気が上っていきました。元フランス代表選手、元ドイツ代表選手、元ブラジル代表選手、元アルゼンチン代表選手、これらのような元代表選手達が引退の直前に、もう一度日本に来てプレーをすることによって、とてもいいお金を稼ぐことができたので、彼らも喜んで日本に来たのです。

ただし今は違い、4、5年前からは、中東の国々、あとロシアでとてつもないお金を稼ぐことができるようになったのです。なので、引退直前の代表選手たち、いわゆる当時の状況ならば、バインとかブッフバルトとか、ドゥンガ、レオナルドなどなどが当てはまるんですけど、このような選手たちは今日では日本ではなくて、そういう別の国々に行くようになったのです。とういうことは、多くの有名選手にしてみれば、日本に移籍するということは、まったく魅力的なことではないのです。それならば、カタールに移籍したり、ドバイに移籍したり、もしくはUAEに移籍したり、もしくはロシアに移籍したりするほうが、金銭的にずっと魅力的なものなのです。

今、こういう時代になってきています。だからこそJリーグが今後も成長していきたいのであれば、新しい考え方を身につけなければなりません。なぜならば、ブランドネーションからの完成された有名選手を獲ることができないからです。

このような状況でやらなくてはいけないのは、もう少し安い選手をとること、お手頃な選手をとること、もしくは自ら選手を育成することです。そして新しい考え方に切り替えてこのような新しい考え方に切り替えて、次のステップを踏むということは、非常に難しいことだと思います。自ら優れた選手達を育成していくということは、そう簡単ではないからです。

浦和レッズ フォルカー・フィンケ監督 最後の会見・後編【川岸和久】:サッカーを読む!Jマガより引用

確かにここ数年はサッカー強豪国の(元)代表クラスが来日することもめっきり減りましたね。ヨーロッパや、今伸びてきているアフリカの国やクラブチームとの連携を強化して、若くて将来性のある選手を発掘→獲得するような手法がこれからは必要になるのでしょう。

フィンケさんも会見の中でバインの話を出しつつ下記のように述べています。

そして彼はそのインタビューではっきりと述べていたのです。『日本のチームでは常にとても優れた三人の外国人の選手がいる。それ以外の日本人選手は、戦う、それから、走る、それだけだ。そして最も優れた三人の外国人選手を獲得したチームが、順位表で最終的に優勝争いをすることができる』ウーベ・バインは当時のインタビューではっきりとそう答えているんです。そして当時のJリーグの状況を考えれば、もしかしたらそこにも部分的な事実はあったのかもしれません。

ただしここ数年間のJの状況は変わりました。一昔前のように有名な選手をヨーロッパから獲ることはもうできないのです。だからこそ自ら選手を育成していかなくてはなりません。もしくはさっきのお話にもありましたように、今までなかったルートから選手を取らなくてはなりません。

1つの考え方としては、ヨーロッパの一流クラブと提携関係を結ぶことで、そしてそのクラブに所属している優れた選手、そしてこれから伸びるであろう選手を期間限定でレンタルすることです。例えばヨーロッパのチームに所属している選手でまだ試合に出ていない選手は、Jリーグにきて、ここで試合の実戦経験を積みそしてヨーロッパに帰っていく。

浦和レッズ フォルカー・フィンケ監督 最後の会見・後編【川岸和久】:サッカーを読む!Jマガより引用

そして話は今後のJリーグについて広がっていきます。

そして私が日本にきてから2年間でもこのような状況の変化を見ることができましたが、あと数年すれば日本のA代表チームのスタメンのメンバーは、全員がヨーロッパでプレーしているようになるでしょう。ワールドカップの後の親善試合でもスタメンのメンバーのうち7人がJリーグのクラブではなくてヨーロッパのクラブでプレーしていました。そして今後はさらに増えていくでしょう。

ですので、これは意図的に私は少し悲観的なことを言うことになるかもしれませが、将来的には日本代表の合宿は日本ではなくて、ヨーロッパで行われるようになるでしょう。アフリカの代表チームを見てください。彼らの合宿はすべてヨーロッパで行われています。コートジボワールとかガーナとかブルキナファソとかこれらの代表チームは、常に合宿と親善試合をヨーロッパでやっています。なぜならば、これらの代表チームの選手はみなヨーロッパでプレーしているからです。

...中略...

簡単でないことはよくわかっています。それでもさらにJリーグは質の高い選手を育成していかなければならないのです。それからJリーグのマネージメントの人間も、お金を稼ぐようなことができるやり方で契約を結んでいかなくてはなりません。でないと徐々に国際サッカー界での競争力を失っていくでしょう。無名な選手ならまだしも、A代表選手が移籍金ゼロで移籍するようなことがあってはなりません。

代表選手は優れた選手のはずです。優れた選手を出す時には、通常であれば違約金が入るものです。私は今ここで浦和レッズの批判をしたい訳ではありません。私は単純に日本で見ることができた現象を中立的な立場から指摘しているだけです。これは私にとっても大切なことです。皆さんもぜひそのことは考慮していただきたいと思います。私はこの場で浦和レッズを批判している訳ではありません。

浦和レッズ フォルカー・フィンケ監督 最後の会見・後編【川岸和久】:サッカーを読む!Jマガより引用

言葉は悪いですが、いい選手を安く仕入れ、育成して価値を上げ、必要なら高く売る、その繰り返しによって資金を稼ぎつつチームを運営・強化していくという手法は海外のクラブチームでは当たり前のように行われていますが、日本でも本格的にこういう取り組みをしていかないといけないってことなんでしょう。

さて、続いて記者から2年間に点数を付けるとという質問が。

この2年間で最高値が10だとすれば、どれだけのステップを踏めたか

「6から7じゃないですか。(選手も同じ風に?)だいたい6から7じゃないですか」

浦和レッズ フォルカー・フィンケ監督 最後の会見・後編【川岸和久】:サッカーを読む!Jマガより引用

7割くらいまでは来てるっていう認識なんですね。さらにチーム改革に取り組んだ当初から2年間での進捗具合に関しては当初予定していたよりも遅れたという認識みたいですね。下記のように言っています。

当時私たちが分析した状況では、確かに、ここと、ここと、ここのポジションで選手を入れ替えて、様々な改革を行って、ここに所属する選手を他のクラブに移籍させることができれば、そして同時に状況によっては他のクラブから優れた若い選手をこのポジションのために獲得することができるのであれば、とても素早い改革を進めることができると思いました。なぜならば、予算があれば選手を放出することもできますし、同時にここのプレースタイルに合う選手を獲得することもできます。

ただし現実的としては予算がない、そして多くの選手たちが契約が残っている、放出することもできない、このような現状がありました。しかもチームを改革するために必要な予算、選手をとるために必要な予算がまったくない、ということになってしまうと、さらにチームを改革するのが遅くなってしまいます。チームの改革、それから選手を入れ替えるということは、とてもとてもたくさんの要素が絡み合って初めて成し遂げることができるのです。

ただしすべてのことについて公の場で説明することができないところもあります。私たちがもともと思っていたように改革の一部を進めることができなかった、もしくは私たちが願っていたテンポで、スピードで進めることができなかったのも事実です。

浦和レッズ フォルカー・フィンケ監督 最後の会見・後編【川岸和久】:サッカーを読む!Jマガより引用

素人考えでは選手を放出すればそれで年俸分が浮いてコスト削減って思いがちですが、選手の移籍先が決まらなければ単にクビっていうわけにはいきません。違約金も発生しますし、もちろん選手の将来的なことも考えなければならないですし。また予算が潤沢にあれば他から選手を引っ張ってくることも比較的簡単ですが、なかなかそれもできないと。少なくともフィンケさん自身、本来ならもっと早めに結果を出したかったと考えていたってことですね。

さて、長くなってきましたが、会見も終盤。2年間を通してあまりうまくつきあえなかった感のあるメディアに関しても話は及びます。

最後の最後ですけど、私からは皆さんに対して感謝したいと思います。私もできる限りここで受けた質問に応えようとしましたけど、できる限りのことはしたつもりです。ただし、一部の新聞の記者の方は、私に対してあまり好意を持たない形で記事を書いていたと思われます。

ただし私は日本に来て、このクラブであることを学びました。それはあまり記事に書いてあることは気にするなということです。あと、私がもう一つ気づいたのは、日本で仕事をするのはジャーナリストの皆さんにとってもそう簡単なことではないということです。多くの新聞社では、人事異動があって、例えばそれまでサッカー担当だった人間が、ボクシングの担当になったり、一つの例ですが、こういうのが非常に悔やまれることだと思います。

一緒に仕事をしていく上で、高い質をキープしていくということを考えれば、このような人事異動はまったく建設的なことではありません。一人のジャーナリストがサッカーを専門的な仕事として捉えて、数年間に渡って、もしくは十何年に渡って書くことができれば、質の高い記事が書けるようになると思います。これはサッカー選手の成長に関しても同じです。

浦和レッズ フォルカー・フィンケ監督 最後の会見・後編【川岸和久】:サッカーを読む!Jマガより引用

ここでも継続っていう話が。やはりサッカーの歴史がハンパない国の方ですから、サッカースタイルにしてもクラブにしても、そしてサッカージャーナリズムにしても、長い時間をかけて作り上げていくものだというはっきりとした哲学があるんでしょうね。それに対して日本では短期的な視点でしか物事を考えられてないんじゃないかっていう。

この話はそのままクラブにも向けられます。

例えばヨーロッパの最も優れたクラブを見てみてください。たいていどこのクラブでも、長期に渡って結果を残しているクラブでは、監督は少なくとも3年同じクラブで仕事をしています。マンチェスター・ユナイテッドを見てください。ファーガソンは20年以上仕事をしています。アーセナルのベンゲル監督を見てください。12~13年仕事をしていると思います。バルセロナを見てください。今までの歴史の中でも、最も優れた結果を残すことができていた時期は必ず4年、もしくは5年同じ監督で仕事をしていました。

そしてもし監督でなければ、スポーツディレクターなり、ゼネラルマネージャーなり、もしくはクラブの会長が何年にも渡って長期的な仕事をしなければならないのです。このような継続性を持って、初めてすべての結果を残すことができます。でも、すべてのこの3つのポジションで、定期的に人事が入れ替わっていては、結果を残していくのは、クラブとしては非常に難しくなります。

これはやはりこの日本サッカー界に存在している、この組織とも関係していると思います。日産や三菱というそれぞれの企業が2年おき、もしくは3年おきに新しい人間を、本社のほうからクラブに送り込んでくると、クラブが継続性を持った仕事をすることをするのは、さらに難しくなってしまいます。なぜならそれぞれの社長が自らの組織改革をしようとするからです。

それによって多くの人事異動も行われてしまいます。私はここ2年間仕事をしてきましたが、この多くの人事異動によって、私がこの3つのポジションに関して言えば、最も長くクラブにいる人間になってしまいました。私がきてからは2人のチームダイレクター、GMを経験していますし、広報部長も3人変わり、それ以外のポジションでも多くの異動がありました。チームを取り巻く環境でさえ、これだけの異動がたくさんあったのです。なので私は、礼儀正しくこのことは指摘したいです。

...中略...

こういう仕事に対しての姿勢は、ヨーロッパより日本の方が優れているところです。ただし、ヨーロッパで、一人の人間がとても優れていた仕事をしていたらば、この人間がこの職を離れるということはあり得ません。優れた専門家として評価されて、いつまでたってもこの仕事を続けることができるようになります。人事異動で新しい仕事が与えられるということはあり得ません。ヨーロッパと日本の仕事の進め方の違いでしょう。継続的な成長ということを考えれば、そのことを指摘しなければいけません。

浦和レッズ フォルカー・フィンケ監督 最後の会見・後編【川岸和久】:サッカーを読む!Jマガより引用

クラブの姿勢としてレッズに足りないのは長期的なビジョンと継続性ってことは昔からこのクラブを見ている人にはわかりきってる話なんですが、ま、今回のフィンケ体制が中途半端な形で終わったのもこの辺が原因の1つだと。こういう体質的なことって変えられないんですかね...

さて、最後の最後に、日本人選手のメンタリティ(ヨーロッパの選手との違い)についてもちょろっと話に出ます。

はっきり言えるのは、選手が育った環境も違いますし、幼稚園から高校へいくまでの教育も違います。日本の選手はヨーロッパとはまったく違う環境で育ちます。ですので、いろんなところで精神面に関しても大きな違いが存在しています。

もちろんサッカーに関してはポジティブなこともありますし、ネガティブなこともあります。ただし、日本の子供の教育ということを考えれば、野球の方がサッカーより適しているでしょう。野球の方がこの国での教育を比較的楽に反映することができるからです。野球のほうが何をすべきか決まっています。どこを走るか決まっていますし、それぞれの状況が限られているので、多くの情報を集めて判断することができます。

しかしサッカーは違います。サッカーは常にコンプレックスです。そして、それぞれの状況で常に新しい判断を下していかなければなりません。多くの選手たちがピッチの上で、自ら瞬間的に判断を下していかなくてはなりません。そして、大きな驚きを与えるようなこともしなくてはいけないのです。でないと勝てません。

でも、ここ最近の若い世代の選手たちは、違う考えと価値観を持って大きくなってきていると思います。私は1度、香川と直接話し合いをして、なんとかして彼を浦和レッズに引っ張ろうとしました。その時に興味深かったのは、彼の姿勢です。彼の考え方、それから彼のメンタルはサッカーをするのに適しているものでした。

浦和レッズ フォルカー・フィンケ監督 最後の会見・後編【川岸和久】:サッカーを読む!Jマガより引用

「日本人はサッカーより野球に向いている」っていう指摘には確かにねぇって思ってしまいますが、「ボールを扱う技術などは世界と比べても遜色なく、よく走るし、マジメにサッカーをやってる」けど、「言われたこと以外はあまりできない」なんてよく言われる日本人(のステレオタイプ的なサッカー選手像)ですが、フィンケさんも言っている通り、若い人たちの中にはそういうのに囚われない選手も多くなってきそう。

そういう個々のアイデア、一瞬の閃きがフィンケさんが作ってきた土台の上に乗っかるようになれば、楽しい未来が待っていそうねということで、ポジティブに終わりたいと思います。そういう意味で、2年間でフィンケさんが発掘してくれたウガやユース出身の面々が、来年チームの中心として今年以上に活躍してくれることを期待したいです。

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