大槻監督の戦術、およびマネジメント手法に対する現時点での感想と続投論について

浦和レッズ 大槻 毅(暫定)監督

画像は、浦和レッズの公式 Instagram に投稿されたものをベースに使わせていただきましたが、ダメって言われたら消すかも。

ルヴァンカップの広島戦から暫定監督として大槻さんが指揮を執るようになり、この記事を書いている時点で公式戦4試合を消化。初戦となるルヴァンカップは、メンバーを大幅に入れ替えつつも引き分けスタート。その後のリーグ戦では3連勝して、自信を失いかけていたチームに少しずつ自信と勢いを取り戻させつつあります。

同時に、その、まぁなんていうかアウトレイジな風貌が話題になったりして、浦和サポ、Jリーグクラスタはもちろん、サッカー専門じゃないメディアにまで取り上げられたりと話題の尽きない状態に。初めてトップチームの指揮を執ったにもかかわらず、就任以来負けなしという成績も相まって、このまま大槻さんでいいんじゃね? 的な話まで出始めている今日この頃ですが、ここで大槻監督の現時点での戦術的、あるいはチームマネジメントの特徴と、次期(正式)監督へのバトンタッチについて私なりの考えをまとめておきます。

ちなみに大槻さんが監督に就任してから現時点までの4試合については下記で書いています。

ですのでここで書く感想もこの4試合を観てのものです。

まず言いたいことを簡単に箇条書きでまとめておくと、

  • 監督就任から現時点での仕事ぶり、成績に関しては文句なし。120点付けても良いと思われ。
  • 開幕から勝ちなし、とどめに途中で監督が解任されちゃってる最悪の状況を引き継いだ上に、時間がない連戦の中、短期間でここまでチームを形にするのは並大抵のことではない。難しい仕事をひとまずやってのけた大槻さんには最大限のリスペクトを。
  • 大槻さんのとった戦術的アプローチとしては、
    • (初戦のルヴァンカップ広島戦こそ4バックを採用したものの)まずシステムを慣れ親しんだ3バックに戻して選手達の脳みそへの負担を軽減。一方で可変システムをやめてストッパーは守備に専念させ、ウィングバックを最終ラインに吸収する 5-2-3 でブロックを作る守備を整備。
    • 次に各選手をその特性が最も発揮できるポジションに当てはめつつ、ウィングバックと2トップ、1シャドーの5枚で相手ディフェンスのポジションギャップを突く攻撃を徹底。この辺は仙台などでコーチをやっている時から定評のある大槻さんの分析力がいかんなく発揮されてると思う。
    という大きくは2点。結果的にはこの修正がうまくハマって得点力が改善され、現在の結果につながっている。
  • 5-2-3 で敷くブロックの弱点としては最終ラインの前、ボランチの両サイドのスペースケアだが、ここはボランチのスライドと、最終ラインから前向きに潰しにでることでカバー。
  • このスペースがケアできなくなる時間帯など、全体としてラインが引いてしまって押し込まれるという課題はあるが、運動量に頼ったやり方である以上、ある程度は仕方ない。
  • 大槻さんの特質すべき点は、まずモチベーターとしての能力。勝てないチームが陥りがちな、自信喪失 → ミスを恐れた消極的プレー → 戦えない → 勝てない → 自信喪失っていう負のスパイラルを、ショック療法的な人の入れ替えをもって、「戦えないヤツは使わない」という強力なメッセージを選手達にぶつけることで競争意識を刺激。同時に「お前らならできる、自分を信じろ」的なポジティブな働きかけによってモチベーション高めることで打破したのは素晴らしい。この辺は育成の経験が大きいかも。
  • 槙野さんもなんかのインタビューで答えていたが、言葉の使い方、話し方がとてもうまい。指導者の能力として、簡潔な言葉をつかいながらも、きちんとしたメッセージを的確に伝えられる能力は重要。またその自信ありげで、堂々とした話しっぷりは選手はもちろん、サポーターをはじめ、彼の話を見聞きしている人たちに安心感を与えてくれる。
  • そして極めつけがその服装のチョイスなども含めたパフォーマンス。監督が率先して戦っている姿勢を見せること、威風堂々とスタジアムに君臨することでサポやメディアを一気に味方に付けた。苦しい状況の時、人は圧倒的なカリスマ、自分たちを導いてくれる存在を求めるもので、大槻さんもある程度その辺をわかった上で狙ってやっているのではないかと思われる。優れた自己プロデュース能力。
  • この辺は戦術云々より根性論に近い部分もあるけれど、短期的にチームを立て直すためと割り切ってやってると思う。とても冷静に情熱的な態度を演じてる感じ。策士。
  • ただし、ちょっと冷静に。大槻さんはとにかく新監督が決まって新体制が始動するであろうW杯の中断期間までという「短期決戦」という割り切りで、そこから逆算して最短で効果が出そうな手を選択しているのは明らか。長期的にこの手法が継続して効果を発揮するかはわからないし、大槻さん自身も「やっぱり長期的に続けてくれ」とこの状況で言われたら恐らくだけど困ると思う。
  • 結論としては新監督を早く決め、一旦大槻さんの任を解いて肩の荷を降ろしてあげることが重要。短期的なミッションを約束してそれに取り組んでいる人に、長期的なミッションを後出しじゃんけんで付け加えるのは失敗のもとだし不誠実。もちろん一旦任を解いた後は、待遇面など含め、大槻さんという才能が長期にわたって浦和で能力を発揮してもらえるようにクラブは全力をあげるべき。
  • 大槻さんの考えるキャリアパスとマッチするなら、将来的なトップチーム監督への正式就任もあるかもしれないが、その時はシーズンの最初からきちんと任せるべき。

ということで、続いて少しだけ掘り下げて書きます。

堀さん、さらにその前任であるミシャさんとの戦術的相違点

まず直近の前任者である堀さんが採用していたのは、4-1-4-1(途中で 4-3-3 にマイナーチェンジ)という、4バックシステム。堀さんがユースの監督をしていた頃から採用していたフォーメーションで、ユース時代はワントップに阪野さん、ワイドに峻希、元気、インサイドハーフに直輝といった、まさに黄金世代といえるメンバーを配置し、2008年には高円宮杯全日本ユース選手権で初の優勝を飾っています。

基本的にはワイドに個人打開できる選手を配置、一方でインサイドハーフには守備面での対人能力が高く、運動量のある選手を配置してそこでボールを刈り取り、ワイドからのカウンターやフィニッシュを狙う形。常にポジションを動かして相手ディフェンスのギャップに選手が顔を出し、ワンタッチでテンポよくパスを繋ぐことで相手ディフェンスラインを切り裂いていく攻撃はユースではほぼ完璧に機能していた(何と言っても高円宮杯全日本ユース選手権決勝で9得点の圧勝ですからね)わけですが、トップチームではハマらなかったですね...... 新しいやり方にみんなが試合中に考えちゃってる有様で、現代サッカーで「試合中に」考えながらプレーしてたら判断が遅すぎて勝負になりません。

よくミシャさんの後を継いで連覇を含む3回のリーグ優勝を果たした広島の森保さんを引き合いに出した上で、堀さんも森保さんみたいにミシャさんベースでやったらよかったのにって話を聞きますが、確かにそういうアプローチも可能だったと思います。

とはいえ、ミシャさんのやり方って、ミシャさんに依存する部分が大きすぎるんですよね。特に攻撃面の構築はもうミシャさん以外には無理で、誰が後を引き継いだところで、結局はミシャさんが残した遺産を食い潰しながらしのぐしかないという未来が見えてる。加えて監督にはそれぞれの理想や考え方があるわけで、堀さんとしても監督を引き受けた以上は自分が理想と考えるサッカーを追求したいという結論は間違っていないと思います。

結果的にはうまく行かなかったわけですが、チャレンジして失敗するのは別に恥じるべきことではありませんし、クラブも育成面では定評のある堀さんのような人をむげに扱ってそのつながりを失うようなことがないようにはしてもらいたいと思います。

とまぁ堀さんの話は置いといて、そこからチームを引き継いだ大槻さんは、前述したとおり、監督就任後、初戦となったルヴァンカップ、広島戦では 4-4-2 を採用したものの、リーグ戦では3試合連続で 3-5-2(3-4-1-2)を採用。

全試合観ていないのであれですが、記憶している限り、大槻さんがユース監督だった去年のプレミアリーグ(シーズン途中からだったと思いますが)や、決勝まで駒を進めた日本クラブユース選手権でも同様の3バックを採用(3-4-2-1)していたことから、このやり方が大槻さんにとっては得意な形なんだと思います。そしてミシャさんの元で長年3バックになれていた今のトップチームの選手達にもそれがマッチしたと。

で、3バックってことはミシャさんのやり方に戻ったの? と思うかもしれませんが、同じ3バックでも特にボランチやストッパーの役割が大きく変わっています。ミシャさんのやり方は、ビルドアップ時、ボランチが最終ラインに1枚落ちることで両ストッパーをワイドの高い位置に押し上げる可変システムが特徴でしたが、大槻さんは両ストッパーは最終ラインで守備にある程度専念させるポジションをとらせ、ウィングバックを含めた前の5枚と、ボランチが中盤でボールを引き出す動きで相手ディフェンスのポジションギャップを突いていくやり方。

これによって、ネガティブトランジション時でも最初から最終ラインにある程度人がそろっている状況を作れますし、前線がファーストディフェンスに入ってそこで奪えればショートカウンター、無理ならリトリートしている間にウィングバックが帰陣すれば、5-2-3 の守備ブロックを素早く作ることが可能で、リスク低減につながります。

また、ミシャさんの真骨頂は、徹底したパターン練習を繰り返すことで様々なシチュエーションにおけるコンビネーションを選手に刷り込み、それを試合で発揮することで相手ディフェンスを混乱に陥れる見事な崩しでしたが(考える時間なしに発動されるダイレクトのパス交換はディフェンスにとっては対処のしようがないのでハマったらもうパニクるくらい対応が後手に回らされるわけです)、大槻さんはそういったアプローチではなく(選手が癖でそれを出すときはありますけども)、例えば相手が4バックならCBとSBの間、あるいは相手最終ライン前のスペースなど、ギャップに徹底的に入り込んでのパス交換や、ストッパーがワイドに持ち出してからのサイドチェンジでスペースを使うなど、対戦相手のシステムを分析した上で、相手が最も嫌がること、局所的数的優位をどう作っていくかが徹底されていて、その辺はかなり異なる方法が取られています。どちらが良いとか悪いとかではなく、監督によって同じようなシステムでもゴールへの道筋が異なるというのは面白いですね。

さらに、3バックに戻したことで、堀さんのシステムでは不慣れなワイドでゴールから遠ざかってしまっていた武藤さんが、2トップの一角に復帰、ゴールに近い本来の位置でプレーできるようになったことで、同じく堀さんのシステムでは周りにサポートがおらず孤立していた興梠さんもサポートを得て復調。前線が点を取れるようになったことで先制点が獲れるいい流れがここのところは継続しているのが、チーム状況が上向きに感じられる大きな要因でしょう。

ついでに言えば、ストッパーのオーバーラップを自重させ、守備時でも前向きにボールにアプローチできる状況を作ったことが、元々前に出て行く守備では日本でも最強クラスの槙野さんや、インターセプトが持ち味の遠藤さんの特長をうまく活かす結果になっているという点も見逃せませんし、例えば菊池さんなんかもウィングバックとしてやっと本来の持ち味が発揮できるようになってくるなど、まさに大槻再生工場。選手の特性を活かすことから逆算した戦術構築は見事で、短時間でチームが立ち直る結果となりました。

戦術的課題

現時点で出ている課題としては、ボランチの運動量と最終ラインからスペースを潰しにでる強度に頼った守備をしている関係上、運動量が落ちてそこがハマらなくなった時に、ボランチの両サイドのところで相手に起点を作られてしまうこと。最終ラインの前が2枚なので、そこのスペースカバーが遅れるとハーフスペースに相手が入ってきやすいというのはある意味必然。

バイタルエリアを使われ始めると最終ラインはそこからのミドルシュートや裏への抜け出しを気にしてなかなか前に出て行けなくなる(遅れて出ていって外されると神戸戦の2失点目みたいなことになる)し、結果として最終ラインが引いて受けてしまう状況に。

それでも最終ラインでボール奪ってそこから前に出て行ければいいんだけど、ウィングバックも縦の長いスプリントを繰り返すことで徐々に前に出て行けなくなると、前線に向かって雑にボール蹴るしかなくなってきてセカンドボールを相手が奪取→2次攻撃喰らう→押し込まれるの悪循環というのがここ数試合の悪い時間帯の流れ。

で、今のところは負荷のかかるボランチをうまく選手ローテーションすることでコンディションを保ちつつ、苦しい時間帯に関しては選手交代でリフレッシュしてあとは気合いでカバーというやり方。終盤には中盤の人数を増やしてスペースを消すみたいな守備に割り切ったやり方もしています。

その点、2トップからウィングバックにポジションを移して守備をさせても90分走れる武藤さんや、無理がきく橋岡さんのような若いプレーヤーは貴重な存在になっています(一方で菊池さん、君も90分走れるようになろうや......)。この辺は離脱してしまっているウガあたりが大槻さんがやっている間に戻ってきた場合、どうなるのかも注目ポイント。

あとは押し込まれて苦しい状況の時に、例えば昨年のACLなんかはそれがハマったわけですが、ラファさんみたいな雑なロングフィードからでも1人でカウンター当てられちゃう選手が前にいれば相手に対して脅威が与えられるかもしれませんが、今のところそれができないので耐えるしかない感じになってしまいますね。

新加入のナバウトさんはある程度そういう役割を期待されて獲得していると思いますし、大槻さんが後半から彼を投入しているのもフィットさせるためにプレー時間を与えているという側面もあるとは思いますが、カウンターの起点としての役割を期待しているからでしょう。ここがもう少しハマってきて、苦しい時間帯でも前で収まりどころを作れるようになるともう少し楽な展開に持っていけるのではないかと思います。

大槻さんにもっと時間があれば、押し込まれた時間帯でそれを打開するセカンドプランの構築も可能なのかもしれませんが、今はそんな時間的猶予がない状況で連戦を戦っているため、そこまで求めるのは酷かもしれません。その点、今のところ先制点を獲れているというのは救いです。時間が経つとそこも相手が研究して対策してくると思いますので、簡単ではないとは思いますが。

難しいミッションを与えられたにもかかわらず短期で結果を出した手腕は素晴らしい

負けがこんで自信喪失しているチームを立て直すだけでも大変なのに、加えて地獄の連戦が始まる直前にっていう、十分な時間さえもないという状況で監督を引き受けながら、短期的に効果が出る手を的確に打って短期でしっかり結果をだすあたり、こりゃただ者じゃねーなという。

また、前述しましたけども、選手のモチベーションを高める言葉のチョイス、演出、サポも一瞬で味方に付ける自己プロデュース能力。ここまでの大槻さんを観ている限り非の打ち所がない仕事ぶりです。

もちろん、この状況がいつまで続くかわかりませんし、もしかしたら勝てない試合が続く可能性もあるとは思いますが、それでも出だしでもう「大槻さんをみんなで後押ししようぜ」っていう空気を作ってしまったので、少なくとも振り払えないほどのネガティブな空気がチームを覆ってしまうことはないんじゃないでしょうか。その意味でもスタートダッシュは完璧に決めてくれた感じです。

結果が出ているんだからこのまま継続でいいじゃんという考えの危険性

とはいえ、個人的にはこのまま大槻さんで良いじゃんっていう空気には慎重な意見。

最初に明確な目標と達成期間、評価軸を設定する、期間を終えたら一旦総括し、次につなげるというのが目標設定・評価の原則です。今回、大槻さんに求められてるのは(クラブや大槻さんの言葉から判断すると)「次の監督が決まって正式に始動するまでの間になんとかチームを立て直して勝点を1つでも積み上げ、引き継げる状態にしてくれ」ということでしょう。なんで勝点を1つでも多く積まないといけないかというと、優勝とかACL圏内を狙うとか以前に、まずは新監督の仕事が最初から「残留」にならないようにしないといけないから。

つまり目標は「早期にチームを立て直して勝点を1つでも多く積むこと」であり、その達成期間は「新監督就任まで」と明確に決まっているからこそ、その目標を達成するために最適な手法を考えることもできるし、短期決戦と割り切っていて余計なことを考えなくていい分、シンプルに思考できるわけです。

最初に短期的ミッションを与えたのであれば、そこで一旦評価して、今後のことはまた別途話し合うべきでしょう。短期ミッションに注力している人に対して、「結果出てるからこの後もよろしく」というのは無茶ぶりですし、不誠実です。その辺は冷静に判断する必要があると思いますよ。

もちろん、新監督に引き継いだら結果が出なくなるっていうリスクはありますけどね。でも新監督の仕事に関して今度は「長期的な視点で目標に近づいているか」という評価するべきで、短期的な結果で一喜一憂しても仕方ないわけです。目的が異なれば評価の仕方も変わるので、短期的ミッションを与えられた大槻さんの評価と、長期的ミッションを託される新監督の評価を混同しないことが重要かなと思います。

ということで、なんかダラダラと長くなってきたので、とにかくあと1ヶ月くらい、大槻さんを中心に、チームがこのままの勢いで中断期間前の連戦を乗り切ってくれることを祈りつつ、この辺で終わりたいと思います。

Recent Entry
Prev
Next

Page Top